18歳の暑い夏の日、───
僕は、友人が贈ってくれたメロスピ"メロディックスピードメタル"を捨て───
スラッジコア/ドゥームメタルの門戸をくぐった───
ボーダーレス化が進む音楽
みなさんはHR/HM、聴きますか?お好きですか?
HR/HMって、ハードロック/ヘヴィメタルのことなんですけど、昨今ではHR/HMに限らず様々な音楽ジャンルがすっかりグローバル化、ボーダーレスな感じで仲良くやっているので、ぽん、とジャンルの名前を出されてもよく分からないけど、だれだれの何て曲のどのパートみたいな奴、って言えば理解できる素敵な世の中になりましたよね。
ひとつのアルバム内であっても、多種多様な音楽ジャンルの美味しいところだけ摘まんで、ってのは今や珍しくもなく、音楽ジャンルによってカテゴライズする、という作業事態が馬鹿馬鹿しく思えるほどです。
掲題とは全然関係ないんですけど、数年前の話になります。個人的に"シューゲイザー"が認知されジャンルの名称として伝わるようになるとは微塵も想像できていなかったので、音楽はニコニコ動画でボカロタグが付いてるのを聴くだけです、ってな人から"シューゲイザー"って単語が出てきたときは、高校生の時分より"シューゲイザー"というジャンルに対して確固たる帰属意識があり知ってる奴だけが知っている門外不出の鎖国体制な構えだったので、"え?!いつから開国してたの?!?!"という驚愕の念を禁じ得ない、そのような心境に陥ったのを今でも鮮明に覚えています。
俯きながらエフェクターの操作している様が靴"シュー"を凝視"ゲイズ"している人と揶揄され、ノイジーなギターと甘いメロディーで構成される楽曲が主だったジャンル"シューゲイザー"の話は主題ではないので、どうでもいいんですけど。
今時のナウでスマートでクレバーなヤングは、もういちいち音楽ジャンルを意識的に限定して聴いて/演ってないですよね?というコンセンサスを得たかっただけです。
んで、そんなハッピーでピースフルな音楽というワールドワイドなコミュニティ。しかし、人々が目を反らし、記憶から抹消しようとしている凄惨なできごとがある。
各々がフォローする音楽ジャンルを振りかざして行われる宗教戦争だ。
特にHR/HMをマスターとして、そこからフォークしたサブジャンル達(掲題のメロディックスピードメタルやドゥームメタル、プログレッシブメタルなどの事)の、子供同士での争いが顕著だ。
たった一人の母、"HR/HM"を奪い合うかのように......。
音楽ジャンルにおける宗教戦争とは
他人のふんどしで相撲を取る、非常に醜い争い。
私もかつて、この宗教戦争に加担していました。
いや、今再び、本稿の掲題において加担しようとしているのかも知れない。
これ、何なのかというと、自分の好きな音楽ジャンルを振りかざし、我こそが最高と声高に叫び、他の音楽ジャンルを貶めDisり、マウントを取り、ひたすら殴る、ということを互いに延々と繰り返す、まったく生産性のない程度の低い討論のようなものです。
端からしたら、超どうでもよくて、しかも大半がマイナーとマイナーが叩き合うケースなので、ポップスなどのメジャーに帰属するものとしては、マジでくだらない、子供のおもちゃの取り合いくらいにしか見えないだろう。ただ、本人達に取っては、愛する音楽ジャンルを傷つけられることは自身の自尊心を傷つけられることと同義なので実に真面目に行われているわけです。
健全なハードロッカー/ヘヴィメタラーの諸君が無用な争いを起こさないために取らなければならない行動はただひとつ。好きな音楽ジャンルを聞かれても余計な修飾子は付けず、"HR/HM"、とだけ答えることだ。
これは、その昔、私が大塚のライブハウスの打ち上げでメタルなお兄さんから小一時間かけて説教されたことなので間違いない。
会話しているもの同士のフォローするHR/HMサブジャンルが親和性のあるもの(例として、メロディックスピードメタルとシンフォニックメタルのように楽曲的特徴の境界線が曖昧なものが挙げられる)ならよいが、相容れないもの(特にプログレッシブデスメタルやプリミティブブラックメタルなどの狂暴なサウンドのジャンルは好戦的な者が多く、相容れるケースの方がレア)だった場合、即決別を強いられるだろう。
よって、母たる"HR/HM"の一言だけで答えるのが紳士のマナーなのだ。
メロディックスピードメタル、スピードの終着点へ
およそ15年前。
私の通う高等学校では、なぜかHR/HMのリスナーが多く、中でもメロディックスピードメタルが至高の音楽ジャンルである、とする一大コミュニティが形成されていました。
彼らはクサい歌メロとピロピロ鳴るギターと200以上のBPMをこよなく愛し、ハロウィーンやドラフォ、アングラといったバンドの楽曲を日々聴き込み、授業中にそれぞれの楽曲を頭の中で再生し、エアーツーバスを踏む、などして当該ジャンルの音楽を楽しむのであった。
そして、スラッシュメタルやグラインドコア/ゴアグラインドといったエクストリームなジャンルの方が明らかに速いビートを叩きつける、という事実から頑なに目を反らし、よせばいいのに世界最速を豪語するのであった。
青さから来る馬鹿さですね。
当時の私は、スラッシュメタル、グラインドコア/ゴアグラインドに傾倒しており、純粋にスピードを求める者の一人であった。若者がスピードを求めるこの現象は一体なんなんだろう。
で、友人から押し付けられたメロスピのCDを聴かないこともなかったが、なぜ、同じくスピードを求めているメロスピになびかなかったかというと、高校生の時分の私にとって、メタルとはブルータルであるべし、という意識があったのでクサメロなど到底受け付けられるものではなかったのだ。
クサメロ vs ブルータル
スピード vs スピード
こうして他人のふんどしで相撲を取っているうちに、ひとまずメロディーがどうというのはお互いの思想が全く相容れず、争ったところで一生決着のつかないテーマなので置いておこう、それぞれが有する属性のうち同じもので争おうではないか、と議論のベクトルはスピードの方へ向き、より強い武器、より速いビートを求めるようになっていった。
しかし、私は途中で目が覚めてしまった。
気がついてしまったのだ、人が認識できる音の速さには限界がある、ということに。
これ、どういうことかというと、人がテンポを認識するのに必要なのは音と音との間隔の長さなんですが、より速いテンポと認識するには音と音との間隔がより短くならなければなりません。
音と音の間隔が究極的に短くなると、ふたつの音はほぼ重なり点となってしまう。
つまり、これが速さの終着点。
もう答えが出てしまっているのだ。
あとはもうそれ"ほぼ点"をやってしまったバンドを探し出してしまったら議論はおしまい。
発展しない議論にもう意味はない。そう思ったら途端に空しくなってしまった。そして、これまで追い求めていたことのオチにうんざりした。
スラッシュメタルやグラインドコアなどの好きだった音楽ジャンルを巻き込んでメロディックスピードメタルにうんざりしてしまったのだ。
そして、"遅い"を選択した
"速い"は有限だが、"遅い"は無限。
どれだけ音と音との間隔が長く開いてもそこには"無音"という音が現れる。そして、"無音"が流れる空間にリスナーはそれぞれに思いを馳せることができる。"この無音はいつまで続くのだろう"、"次に鳴る音はどんな音なんだろう"、"今日の晩御飯はなんだろう"。なんかステキ。
そして、これまでのメインストリームに反旗を翻すアンチテーゼこそが、ロック。パンク。メタル。
こんな単純な理由から、速さを捨て、如何に遅いか、そしてついでに、如何に重いか、という点に着目し、該当する音楽ジャンルがないか探し始めた。
そして、たどり着いたのがスラッジコア/ドゥームメタル。
スラッジコア/ドゥームメタルは、HR/HMの雄Black Sabbathの暗く、重く、サタニックなヘヴィメタルからフォークされたサブジャンルです。
スラッジコアとドゥームメタルをいっしょくたにしているのは、どちらも本尊Black Sabbathに色濃く影響を受けており、ジャンル分けするのであれば音色がハードコア寄りかヘヴィメタル寄りか、とかそんなもんだからです。
その筋に精通している方が読んだら、その刹那、刺しに来るじゃないかと思われるくらいには適当な事を述べているが、はじめのうちはこれでいい。スラッジコアとドゥームメタルが基本的に遅く重いエクストリームミュージックである、ということだけ覚えていただければ、あとは掘り下げたくなったときに気にすればいいだけの話なので。
超重い鈍器で一発一発、頭を全力で殴られるようなそんな感覚に魅了され、すっかりスラッジコア/ドゥームメタルにハマってしまった。
醜く、凄惨な、音楽ジャンルを振りかざした宗教戦争の果てに行き着いたのは、"遅く"て"重い"というニッチな世界だった。
中二病を拗らせただけとも言える。
おすすめスラッジコア/ドゥームメタル 7選
では、本稿のメインディッシュを。
音楽ジャンル間の宗教戦争とか、そんなことはもう忘れてもらって、スラッジコア/ドゥームメタル、という現状はニッチな音楽をみなさんに広め、聴いてもらうことによって、少しでもこのジャンルがメインストリームに食い込むように、という切なる願いもって、ここにおすすめのバンドを紹介させていただきたいと存じます。
どれも作業用BGMにぴったりなので、集中したい時のお供にぜひどうぞ。
Cathedral / Enter The Worms
まずは、ミドルテンポなところから聴いてみよう。
粘り強く腰のあるサウンドに痺れることだろう。
音色の湿度が高くないのも入門にぴったりな点だ。
人間椅子 / 羅生門
日本にも優秀なプレイヤーが存在することを忘れてはならない。
強烈に"日本"を感じさせるこのナンバーは、海外のバンドには繰り出すことのできない、唯一無二の楽曲だろう。
曲の終盤には突如として表情を一変させる展開があるが、マスターであるBlack Sabbathに色濃く影響されたものだ。
Evoken / In Solitary Ruin
フィンランド出身のEvoken。北欧の大地が育てた感性なのか、冷涼な空気が漂うサウンドが特徴的だ。
そして、ブラストビート。遅く、重いサウンドというベースがあれば、自由な発想が許されるのもこのジャンルの魅力のひとつだ。
Grief / My Dilemma
これまで紹介したバンドはドゥームメタルに分類される。ハードコアの荒々しさがエッセンスの、こちらのスラッジコアはいかがだろうか?聴き比べてみて好みの方を掘り下げるとよい音楽に出会えることだろう。
Electric Wizard / The Sun Has Turned To Black
かつて、Heaviest On The Earth、と賞されたスラッジコアバンド。ファズでブリブリに歪んだギターと気だるく呪詛のように歌うボーカルが印象的。
Earth / Tibetan Quaaludes
リズムレスのこの曲を聴き始めたなら、スラッジ(汚泥)の沼に沈むこと必至であろう。もう、あなたは抜け出せない。
リズムレスのこの方面を突き詰めんとするSun 0)))というバンドもいます。
Sun 0))) / HELL-O)))-WEEN
総括
- 人の奏でた音楽を振りかざして他人をDisるのはやめよう
- 私もこれからはやらないようにします、極力
- どうしても争いたいならテメエのライムでビーフしな
- スラッジコア/ドゥームメタルはかっこいい
- スラッジコア/ドゥームメタルは気持ちいい
- 目まぐるしい曲展開もあり、スラッジコア/ドゥームメタルは時として自由だ
- みんなスラッジコア/ドゥームメタルを聴いて酩酊しよう!
ここまで読んでくださった方がいらしたら全力で謝辞を述べさせていただきたい。
多分、本稿の9割はいらない文章だった。
反省はしている。後悔はしていない。公開はしている。
まだまだ紹介できていない素敵なスラッジコア/ドゥームメタルバンドがあるので、今後もゴリ推しして押し付けていきたい所存にございます。
※本稿の執筆にあたり行った意識調査は単純ランダムサンプリングを採用しており抽出対象人数は1名です